■本の紹介 『当たり前をひっくり返す』 作: 竹端 寛

財務理事澤邉綾子(新百合ヶ丘総合病院)

『当たり前をひっくり返す』 作: 竹端 寛 支配的な価値観をひっくり返した3人の物語を通して「当たり前」と思っていることをひっくり返し、その実践内容やそれが及ぼした社会への影響力、形成されていく思想や哲学および生き様に影響を与えるような1冊です。

精神病院の隔離収容構造そのものを問題視し「自由こそ治療だ」というスローガンのもとで精神病院をなくしたバザーリア(1924-1980:イタリア)、知的障害者の入所施設の構造的問題と取組み、入所施設の論理を破壊しノーマライゼーション原理を唱えたニィリエ(1924-2006:スウェーデン)、教育の抑圧性を告発し主体性を取り戻す問題解決型教育の理念を世界中に拡げたフレイレ(1921-1997:ブラジル)。

直接の出会いや交流はなく思想的に影響を与え合った形跡もない同世代に生まれた3人であるが、40代後半を迎え、精神病院・入所施設での管理支配や抑圧的な教育といった当時の社会で「当たり前」とされてきたことに公然と異議を唱え、それ以外の方法論を提示し、動乱の時代に社会に大きな影響を与えた。

私たちの身の回りに「当たり前」と思うことは、たくさんあるのではないでしょうか。例えば、命を守るために抑制するのは「当たり前」、新人の教育の方法はこう指導するのが「当たり前」など。「当たり前」と思っても一旦は立ち止まり対話を重ねると、意外とシンプルに物事が見えてくることはありませんか。

世間を騒がせた登戸殺傷事件で退院された保護者の方から頂いたお手紙に「この事件が憎しみの感情だけで終わらないよう命の大切さを保護者として娘に伝え、前向きに生きていけるように…」とありました。憎しみや悲しみの感情が湧くのは当たり前だと、どこかで思っていた私たちの意識を変えるような言葉に、目頭が熱くなる思いでした。また、管理者として前向きに進むために新しい意味が見出し、組織に浸透させていかなくてはと、心新たに感じた瞬間でした。


 

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